【プロに聞く!】NTTがeスポーツに参入したそのワケは?NTTe-Sports副社長、影澤潤一さんへインタビューしてきました!
eスポーツ業界の現場で活躍する方へのインタビュー企画「プロに聞く!」。
今回はNTT東日本より発表され、今年1月31日に設立されたグループ初のeスポーツに特化した新会社「NTTe-Sports」の副社長、影澤潤一さんにお話をうかがってきました!
学生時代よりストリートファイターシリーズをメインに選手活動、イベントや大会運営を数多く手がけてきた影澤さん。
趣味としての活動が会社にバレたことをきっかけに、新しく立ち上げる会社の副社長に任命される前代未聞の“ゲーミング身バレ”は、ネット上でも大きな注目を集め話題になりました。
今回は、そんな影澤さんにNTTe-Spotsの副社長として、”ゲーミング身バレ”から副社長就任へ至った経緯や想い、そして新会社の事業内容についてインタビューしてきました。
なぜNTTグループがeスポーツへ参入したのか、報道発表で公開された複数の事業に対して具体的にどのようなアクションを起こしていくのか。
気になっていたことをすベてぶつけてきたので、ぜひお楽しみください!
“ゲーミング身バレ”のすべて
ー本日はよろしくお願いします。さっそくですが、今回NTT e-Sports副社長への抜てきとなりました。副社長としてお話がきた時はどのように感じましたか?
よろしくお願いします。
もともと携わっていたのが、世の中のトレンドをNTT東日本の事業にどう結びつけるかを検討する部署でした。
いくつか注目するテーマを挙げた中に「eスポーツ」という単語があったんですね。そこに自分が興味のあることだから肩入れしたわけもなく、他のテーマと平等に扱っていたのですけれど、リサーチ段階でわたしが業界に関わる人間だと言うことがバレてしまいました(笑)。
また、このときの部署が社長直轄の部署ということもあり、上層部との距離も近かったんです。先の“身バレ”のことや、プロジェクトリーダーとして名指しで指名していただいたときには自分で言うのなんですけど、社内や業界をみても他にできる人はいないだろうし、NTTの事業として私がやると言うことに意義や必然性も感じました。上からの「想いを入れてやっていい」という後押しもあり、自分がやってみようと決断に至りました。
どんなポジションでやるのがいいのかと言うことについては、経営判断も含めてのことだと思っています。
やはり社長になってしまうと事業を主体となって進めていくというより、経営面を考えることがメインになってしまいます。そうなると我々が会社を起こしてまでやろうと思っていたこと、自分のこれまでの経験を十分生かすことができなくなってしまう。それでは本末転倒ということで、副社長という役職をいただいたと考えています。今このポジションで動いて1ヶ月ちょっと経ちますが、感覚としては「ちょうどいいな」と感じています。
ー確かに副社長って現場の責任者って感じですもんね。
そうですね。事業計画を含めてやりますし、一般的な副社長の立ち回りとは異なるかもしれませんが、イベントまでいって現場監督をやるなんてこともしていこうと思っています。
NTT-eSportsについて
ー徐々に会社の中について伺いたいと思います。現在メンバーは何人くらいいらっしゃるのでしょうか
役員を含めて8人くらいです。ただ今回は6社合弁なので、パートナーとなる部署の方たちも含めると計30名ほどでしょうか。
ーなるほど。これまでの記者会見や発言を受けての質問なのですが、様々な自治体・企業・団体に向けてソリューションの提供を行っていくとのことでした。具体的にどのようなアクションを起こしていくのでしょう?
大筋はeスポーツに特化したソリューションであることに間違いはありません。ただ、「地域の課題を解決する」というのがNTTグループのミッションなので、地域の問題を解決するための切り口としてeスポーツに特化しているのがNTTe-Sportsの位置付けになります。
もちろん地域の課題は多種多様です。観光という切り口に対して「イベントをしましょう」「人が集まれる施設を作りましょう」「関連企業と提携を組みましょう」といった企画・コンサルティングから入って、イベントならそのまま受託して提供する、施設なら設計を含めて取り組む。そういった一気通貫、トータルコーディネートでソリューションしていくというのが、我々のやっていくことです。
ーイベントの開催となるとIPの許諾、場所の確保、機材の確保といった調整が必要になると思うのですが、そのような運営面に関しても関わっていくのでしょうか?
そうですね。すべて、全部やります。
よくインタビューで「どのような会社が競合になりますか」といった質問とセットでお答えしているのですが、そういった意味ではコンサル・企画・運営を1社でやるという点で競合はいません。
ただ、それぞれのパートを専門的に行っている事業者さんがいることは把握していますので、我々としては「競合」ではなく「パートナー」として、必要なパートごとにパートナーシップを組ませていただき、一緒に作り上げていきましょうというスタンスです。
これまでの個人としての活動の中で、そういった事業者の方との繋がりもありましたので、協力してやっていこうという話は事前にさせて頂きました。今のところ特に反発や拒否感といったものは感じていません。
もちろん我々が直営でできることもありますが、地域、規模、タイトルによっては得意にされている事業者様もいらっしゃいます。そういった場合には、我々の強みである、自治体との提携や協業といった面からサポートし、「eスポーツを活用して地域を盛り上げたい」という仕事に対して一緒になって取り組むことで、互いに貢献、寄与できると考えている次第です。
ーICTを使って展開していくということからインフラも運営も全て行っていく。そして規模によっては対応を柔軟に変えていくということなんですね。
そうですね。今までって外部の企画する人がいて、運営をする人がいて、会場でネットワークが必要だからってタイミング、ここでNTTが受注するという受け身の形だったんですけれども、これからは本当に頭からお尻まで一貫して会社で出来るということを会社を立ててやっていくということですね。
ー役割として今までありそうでなかったことですよね。もともとインフラを扱うNTTが取り組むということに大きな意味を感じます。
ここにきて少しずつみなさんが困っていたところっていうのが見えてきたところなので、我々がネットワーク、ICTの部分から課題解決につながっていくのかなということですね。
ーその「ICT」の部分で質問なのですが、どのような取り組みを予定されているのでしょうか?
もちろん通信網としての「ローカル5G」の研究や開発もありますが、利便性というところで低遅延や同時接続というところでeスポーツを活用の場にしていくことを考えています。
「観戦」と「効率化」を加速するICTの活用
ープレイヤーはよりプレイに集中し、観客はより試合を観やすくなると。
そうですね。
eスポーツには「競技する部分」と「観戦する部分」っていう大きく2つのシーンがあって、その両方に対して通信は寄与する部分があります。その中でもとくに「観戦する部分」。これがこれからの課題になると思っています。
今日にいたるまで多くの人の努力により、プレイや選手の魅力が伝わるよう進化してきた試合観戦ですが、ある種の型のようなものができているようにも感じていていて、ここからどう発展させていくかみたいな話が大事だと思っています。
我々はこの見せかた、見え方という部分をICTの力でさらに昇華させていきたいと考えています。
すでにいくつかの例もありますが、富士通さんと共同開発したクリップライブという画像分析やAI分析をつかったデバイスがあります。観客にどうやって人の手を介さず、わかりやすく試合を見せるシーンをつくるですとか、ラグビーのワールドカップでもやっていたマルチアングルですとか、ああいった見る人が自分でいろんなアングルの映像をチョイスできる、自分の好みに応じた見せ方を作ってあげるというのもわかりやすくあるので、それを支える技術と通信を我々としては提供していきたいと考えています。新たな付加価値を技術とICTとして創出していくということですね。
もう1ついうと「効率化」も重要なテーマです。
これまでイベントを地方でやろうとすると、東京から人やものまですべて送ることになるので、東京と同じクオリティのイベントが地方で同じ予算でできないという格差の課題がありました。そこを少しでも解決できるのが、我々の技術と通信だと思っています。
人やものが現地まで行かなくても解決できるように、技術や通信をつかってひとつのパッケージをつくれば今より低予算で同じものができる。そう言ったシーンを全国どこにいてもできる環境を作るということ、加えてイベントそのものを我々が一気通貫で提供できるということが、全国的なeスポーツの活性化になるのではと考えています。
ー「どのシーンを抜き取るのか」「どう言ったシーンをカメラが追いかけるか」ってタイトルの知識がどれだけあるかが重要になりますもんね。それをAIが自動で認識して切り取っていく。これはすごいです。
やっぱりこれまで大会のハイライト映像ってそのゲームをわかっている人がその人のセンスや経験でやっていたわけじゃないですか。だけど、そういった人たちをどうやって育てていくか、という新たな課題も生まれました。ただ、それがすべてAIが行えるのかというとそれも違って、しばらくは人と機械のハイブリッドで努力していくことになるのかなと思っています。
教育者とスペシャリストの育成を
ー事業の中でもあった「人材育成」に繋がっていくところですね。
はい。当然「これは機械ができることだよね」という部分は機械に任せて、より人でしかできないことにさらなる価値を付けて発展させていくことが重要なのではないかと思っています。
個人的としてはいま何も知らない人たちをみんなで教育していくことって力を入れてやるべきでないと思ってて、それ以上に、中間層の人たちをスペシャリスト育ててさらなる高みを目指すことが優先度の高い課題かなと。
ー誰にでもできること、少しレベルの高いところまでパッケージとしてまとめたり技術で補えれば独占状態じゃないですけど、「あそこにしか頼めない」といった問題は避けられますね。
そうです。結局1年は365日しかなくて、広げていくためには同じ日に同時にやらないといけないこともあるわけで、そんな時に人的リソースがないからこことここはできないよね、だと残念なので。
ーそうなると人材育成はかなり幅広い事業になってきますね。
例えば人材育成っていうのもやはり、競技をする人の育成もありますけど、競技をする人を育てる人の育成、コーチやアナリストの育成ということもありますよね。また、eスポーツの事業に携わる人を育てるということもあります。
他にも海外でいうと海外ではリアルスポーツとの親和性というか、NCAAとかそういったスポーツの基準を作っているじゃないですか。やっぱり日本でゲームがeスポーツといいながらもネガティブなイメージがあるのってフワッとした不安が先行していると思っていて、そういうゲームへの考え方、印象の問題を解決するために我々が学術機関や医療機関と連携していくことにも取り組んでいきたいと思っています。
「実験」と「展示」をかねそなえた施設運営
ー秋葉原UDXに施設を作るという話もありました。これもeスポーツ特化の施設ということなのでしょうか。
そうですね。
ただeスポーツスタジアムというよりは我々のコンセプトである「ICTとeスポーツ」でどんな世界観を作れるのか、という実験的な側面があります。
わかりやすい例でいうと、メーカさんと協力して新しいデバイスを試してもらうことも想定しています。そうすることで、ユーザーには最新のデバイスに触れられる場所となり、メーカーにとっては開発と研究の起点になる。みんなでeスポーツをどう発展させていくかというショールームや実験場のようなイメージにしたいと考えています。
また地方の方が自分の拠点に施設を作りたいなってなった時にそれをまるごとスケーリングだけ変えて提案させていただけるという形になるのかなと思っています。
ーこれは一般の方も使える施設になるのでしょうか。
はい。基本的にはイベントオーナーに貸してっていうことになりますけど、飲食も提供できるようにしたいですね。そういった施設や大会運営については個人的にもノウハウも踏まえ、どうやったらコミュニティーやイベントオーガナイザーがどのようなものを欲しがっているのかといったことを考慮しながらやっていきたいと思っています。
ーなるほど。ここまで様々な事業内容についてお話していただきましたが、ビジネスモデルはどのようにお考えでしょうか。
イベントや施設運営のような短期的な収支はもちろんですが、サポートや人材育成事業が伸び代だと考えています。
またオンラインのプラットフォームを作成と地域コンサルですね。自治体がeスポーツを使ったソリューションの提供のお手伝いや地元企業さんと提携していったり、いろんな手法を取り入れていきたいと考えていきたいと思っています。
「eスポーツやればお金儲けられますよ!」っていう立場ではなくて、街の問題を解決する方法がeスポーツではないことも当然考えられます。そのときはNTTグループの連携を駆使し、違うソリューションを提供させてもらうというのがNTTらしさでしょうか。「地域の課題を解決する」というミッションをグループフォーメーションでお手伝いさせていただきますということですね。
すでにNTT東西の地域会社から、eスポーツで何かしたいという相談を受けています。今までは打つ手がなかったのですが、そこに我々が手を差し伸べていきたいと考えています。
これから必要となる人材
ー最後の質問になるのですが、今後NTTeスポーツさんにはどんな人材が必要か教えていただきますでしょうか。
これから地域活性化を考えたときに一番必要なのって自分の地域を元気にしたいというマインドを強く持った人だと考えています。
とくに地域の課題をeスポーツで解決したいってなった時には、どれだけゲームが好きで、ゲームをつかって周りとコミュニケーションをとり、そして共感者、または次のアクションを起こすときの協力者として引き込めるような人材だと思うんです。
それを踏まえ、どんな人材が欲しいかというとNTTっぽすぎる気もするのですが、「その街の課題をどれだけ本気で解決したいと考えているか」「専門性の高いeスポーツにどれだけアンテナを張っているか」そして「ICTへの興味や知見」でしょうか。やはり技術にも明るくないといけないし、ゲームにも詳しくないといけない。それだけではなく、先ほども話しましたがどれだけ地域を愛しているかという気持ちがないといけません。3つ全てとはいいませんが2つは少なくとも持っている人ですね。
とはいえ現状採用活動は行っていませんので、NTT東日本ないし西日本に入ってもらって、地方創生をしたい、かつeスポーツでとなると我々と一緒にお仕事ができるかなと思います。
ー影澤さん、本日はありがとうございました!
おわりに
いかがでしたでしょうか!
これまで培ってきたNTTのネットワークを駆使した技術開発、人材育成と地方のeスポーツを活用した課題解決への挑戦とこれからの活動が楽しみでなりません!
また、影澤さんはインタビュー後に、ゲームの持つ可能性について、テレワークや在宅勤務といった“どこにいてもコミュケーションが取れること”が注目されていることと同じくらい“会えるからこそ生まれるオフラインの価値”も高まっている。コミュニケーションツールとしてのゲームには様々な可能性があると考えてるとおっしゃっていました。両方の楽しさや、そこで生まれる目に見えない価値を大事にされている方だからこそ出てきた言葉だと感じました。
選手から運営者へ、そしてこれからは事業の責任者としても動き出す影澤さんを応援しております!